東方の夜明け

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2011年 02月 02日

【ときメモ4】 Sister and brother ~チョコは明日何を見るか~ 【SS】

※このSSはフィクションです。
※登場する人物、地名、団体名(んなもの出ねえ)、シチュエーションは架空のものです。(俺だけの中で良い)
※七河姉弟誕生日記念SS

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七河瑠衣は、悩んでいた。
今、彼女が居るのは自宅のキッチンである。周りにはボウルや鍋といった調理器具が置かれている。そして、その傍らには板のチョコレートが一つ。
七河瑠衣は、戸惑っていた。
初めて好きな人に送るチョコを、どう作ろうかと言う事に。
「あ”~~~~。」
悩んで、悩んで、瑠衣はキッチンの隣にあるリビングのソファーへと突っ伏して頭を抱える。
事前にかけていたメガネはちゃんとテーブルの上に置いてきたので潰れる心配はない。
伝説の樹について調べる為に、弟の正志に無理を言って潜入したきらめき高校。
初めは目的のために息巻いていたが、次第にそれは別の事へと変わっていく。
正志から時々聞かされていた男の子。
彼に、自分の正体がバレた事から瑠衣の中に今まで感じたことの無かった気持ちが芽生えたのである。
それは”好き”という簡単な気持ち。
瑠衣は、彼に恋をしていたのであった。
これまで男性とのデート経験が無かった瑠衣にとって異性とのデートというのはいつも新鮮であり、大変な事ばかりであった。
その一つとして服装である。彼女は服装に関して特に意識したことが無く、所謂”流行りもの”を把握してなかったのである。
だから、彼女なりのセンスを総動員して購入した制服風の私服は彼にはウケが良く、表面上は笑顔ながらも内心は冷や汗タラタラだった彼女の心を幾分か軽くした。
それから、一緒に海へ行ったり、カラオケでアニソン三昧をしたり、自身のバイト先へ招待してみたり、アミューズメントパークでポップンミュージックをした時に―
「んー…。」
うつ伏せにしていた身体を反転し、仰向けにして天井にあるライトを覆うように、瑠衣は左手を見る。
そして思い出す、あの時、ポップンミュージックを彼と一緒にプレイしていた時に思わず触れてしまった手の感触と、暖かさを。
その後で二人は手をつないで帰るという機会が多くなったのだが、瑠衣にはあの時の、あの一瞬の感触が一番印象に残っていた。
「…うっはー!」
それを思い出して、瑠衣は顔を赤くする。
あの時は突然の事で顔が真っ赤になっていたのは鏡を見えなくても判ったが、今ではそれを思い出すたびに、あの時の妙な気恥ずかしさが蘇り、それで顔を赤くすることが多い。
ただ、今ではそれ以外に表情の変化がある。
「んー…まるで黒歴史ノートを大人になってから見てしまった気分っすよ~。私はそんなもの無いけどさー。」
一人だけ居る空間で、思い出した事を誤魔化すかのように小さく呟く瑠衣。
その手を見る顔は、大きな笑顔で彩られていた。
「…でへへ~。」
それに釣られてか、思わずだらしない声が漏れてしまう。
「…何やってんだ、姉さん。」
「うわぁ!」
突然の呼びかけに、驚いて首を起こす瑠衣。見ると、台所から弟の正志が彼女の方を見ていた。その手にはみかんの缶詰が握られている。どうやら、それを食べるために瑠衣とは入れ違いで台所へ来ていたらしい。
その顔は、変な声を出していた姉に対して呆れているものになっていた。
「べ、別になんでもない!それよりも、乙女の顔を黙ってみているなんてどーいうつもり!」
「乙女…ねぇ。」
苦笑して、正志が瑠衣の方へと向かってくる。
何よ、と瑠衣はむくれた表情をして今度は上半身を起こした。
正志は、あと数歩という所で立ち止まり、そこで口を開いた。
「どうせ、あいつの事を考えてたんだろ?」
「んな…なんの事かなァ。」
わざとらしく頭を掻く瑠衣に、正志は”やれやれ”と言いたげな表情でこめかみを掻く。
正志は瑠衣の反応が嘘だという事に当然気づいていたし、瑠衣も自分の反応正志にバレてると理解した上で、その態度をとっていた。
「バレバレだって。…昨日からアレコレ騒いでたしな。」
「ちぇ。そーですよーっだ。別に良いじゃん、初めて男の子に本命のチョコを渡すんだもん、そりゃ悩むわよ。」
「別に普通で良いと思うけどな、あいつなら何でも喜んで受け取ると思うぜ。」
「分かってるわよ、その位。けど、他にせんせーを想ってる女の子が居たらさ、やっぱり気合入れなきゃって思うじゃないの。」
「それが通じれば苦労はしないんだろうけどな…。」
「ん?正志、何か言った?」
正志がぽつりと言った言葉は、少しだけ聞こえたらしい、瑠衣が正志の方へと向いて何事かと首をかしげている。
「何でもないよ。」
しかし、正志は小さく首を振るだけであった。それを見て瑠衣は不思議そうな顔をするが、すぐに気にならなくなったらしい元々悩んでいた事に頭を切り替えたのか、また溜息を出し始めた。
「うーん、どういう風に作ったものかなぁ…。お菓子作りそのものだって初めてだから気軽に作れないし、早くしないと…。」
ぶつぶつと言っている瑠衣を見て、正志は小さくため息を出す。
そして、右手に持っていたみかんの缶詰をソファー近くのテーブルに置き、瑠衣の近くへと歩いて行った。
瑠衣は、変わらずチョコの事を考えているのか、ソファーに再び寝そべったまま近づいてきた正志の事には気づいてない様子である。
そんな瑠衣に対し、正志はいきなり彼女の身体をひょい、と持ち上げる。
10cm程度小さいとはいえ、そこは女の子である瑠衣の身体は軽く、運動系である正志には余裕で持ち上げられる重さであった。
「おわわ!なっ、急に何すんのよ正志!」
当然、そんな事をされて瑠衣が大人しくする訳もなく、突然の事に身体を暴れさせる。
が、やはりそこも女の子だったので大した威力も無く、正志は動ずること無くソファーのあるリビングから離れた畳の敷かれた部屋へと担いでいく。
そして、少々ぞんざいな扱いではあったが、そこへ瑠衣をうつ伏せに寝かせる。
「もー、一体どうしたのよ…って、うわっ。」
何が何だかわからない、と言いたげな瑠衣の背中を正志が乗っかった。
勿論体重は乗せてはいない。ただ動けないように固定しただけである。
「ちょっ、動けないじゃん!」
「良いんだよ、全く。」
華奢な身体で暴れる瑠衣に、やれやれと言った表情で正志は彼女の肩を掴み、軽く揉む。
「んあ!」
痛かったのか、気持よかったのか。どちらともつかないような声を出して瑠衣の首が上がる。
それと同時に、暴れていた身体もおとなしくなった。
「やっぱり凝ってるじゃないか。姉さん、最近漫画の方も描いてたし大分肩にキてたんだろ?」
「うー。」
どうやら、図星らしい。否定も肯定もせず瑠衣はただ唸るだけであった。
それを理解してか正志は続いて、しかし今度は先程より弱めに肩を揉み続ける。
「ふぁぁぁぁぁ…。」
よほど効いているのか、瑠衣の気の抜けた声が居間に大きく広がっていく。
特別に効くポイントがあるのか、時々一瞬だけ「ンッ」と首を小さく反らすとこがあるのを、正志は見逃さない。
そのポイントを見抜き、次はそこを揉んでいく。
「くはぁぁぁぁぁ、正志の肩揉みはやっぱり効くぅ~。」
「そういう言い方はちょっと親父臭いぞ、姉さん。」
「うっさいわねー、こういう時くらい良いじゃない。」
姉だからこそ、こういう物言いなのだろうが恍惚な表情で言うその台詞に説得力は無い。
だが、正志は「仕方ないな」と小さく笑い、そのまま肩もみを続行した。
「…姉さん。」
そんな姉の後ろ姿を見ながら、正志は声をかける。
「なーに?」
「あいつとは、それなりに楽しくやってるのか?」
「んっ、そうねー。えへへ、前はスケートリンクで滑りそうになった時に抱きとめて貰ったんだよ。」
「姉さん、スケート苦手なのに良く行ったな…。」
「驚くとこそこ!?…まぁ、確かに私も無茶だとは思ったけどさ…けど。」
「けど?」
「ほら、男の子とスケートって、やっぱり…憧れるものなのかなぁって。」
「…ぷっ。」
瑠衣の言葉に、正志は思わず吹いてしまう。
勿論近くに居た瑠衣にそれが聞こえない訳も無く、慌てたように頭を正志の方へと振り向かせる。
その頬は、真っ赤に染まっていた。
「な、何笑ってんのよ!」
「くくっ、別に…ははっ。姉さん、変わったなぁ。」
笑いを堪えながら、正志は少しずつ言葉を紡ぐ。
その口調には、ドコか寂しそうな色が混ざっていることは、誰も気付かなかった。正志本人にさえも。
「どういう意味よ~。」
「うん?前までインドア派だった姉さんが、あいつのお陰で外に出たり、お洒落に気を使ったり…全く、様様だよ。」
「ふん、どうせ私は引きこもりですよーっだ。」
正志の言葉に、瑠衣はぷぃと頭を元の方向に戻した。
そうは言うが、彼女自身、自分が徐々に変わっていることに驚きを隠しきれては居ない。
自分ではそう認識していたが弟である正志にそう言われ、どこか嬉しく思う瑠衣なのであったが姉としての意地が勝ったのか、つれない返事しか出来なかった。
それを見て正志はやはり苦笑する事が出来ず、もう程良く柔らかくなってきた
肩を揉み続けるのであった。

……………

「ふー。いい具合にほぐれた~。」
肩もみが終わり、正志という拘束具が解けて立ち上がった瑠衣は両腕を回しながら肩の解れ具合を確かめる。
実際のところ、先程まで悩んでいた時より気持ち肩が軽くなった気がしているらしい。瑠衣が軽快に腕を回しているのを見て正志はふぅと息を吐いた。
「ありがとね、正志。ちょっとリラックス出来たわ。」
「ま、これぐらいお安いご用さ。」
少々だらしない表情になっている瑠衣に、正志は微笑んで答える。
瑠衣は、身体を十字架状にして身体を伸ばし、その状態のままで止まっていた。
少しして、腕を下ろし「うし」と彼女は手をグッと強く握る。
「おーっし!チョコレート作り再開するっすよー!今年で最後だし、あの超鈍感なせんせーがドッキドキになるようなチョコをつくっちゃる!」
そして、意気揚々と瑠衣はキッチンの方へと戻っていった。
ここからは姉が頑張る所である、だから弟である正志はそれを見守るのみであった。
(がんばれよ、姉さん。そんだけ気合が入ってるんだ、あいつもちょっとは気にしてくれるさ。)
心の中でそう応援した正志はテーブルの上に置きっぱなしだった、みかんの缶詰を再び手に取りそこから離れる。
(あ、そういやバレンタインといえば…姉さん、俺があの日どんな目に遭ってるか話してなかったな。)
正志はそのルックスの良さから、バレンタインは学校の女子から注目の的になっている。なので、チョコレートを貰う数も校内で一番多い人物と有名であった。
1年目は流石の正志も戸惑ったが、2年目では慣れ、そして3年目。
今回バレンタインデーに瑠衣が正志の通うきらめき高校へと行くのは初めてである。正志が話していないので当日の状況がどうなるのか把握していないし、それをどう切り抜けるか慣れてもいない。
(…まぁ、良いか。)
しかし、正志は話さなかった。瑠衣が今チョコレート作りに夢中になっているのもある。だが、それ以上に当日女の子に囲まれて慌てる姉の姿を想像して、面白そうに思ったのもあった。
(”がんばれよ”、姉さん。それだけ気合が入ってれば、あいつにチョコを届けれるさ。)
心のなかでそうエールを送り、正志は温めになってきたみかんの缶詰を持って自室へと戻っていった。
今夜の七河家は、瑠衣のチョコ作りに格闘する声が景気よく響いていた。


おわり

あとがき

いわゆる3年目バレンタインデー前日談みたいなもの、あと七河姉弟団欒SS。
それっぽく書けたのかわからないけど、取り敢えず山梨意味無落無は相変わらずの俺っぽさ。けど姉弟ってこんなもんだと思う!とか思いつつも。
ぶっとんだ感じで書きたい時もあるんだけど、今のとこ優さん以外書く気があまり起きないのが現状だったりしますのう。
けど瑠衣ちゃんって何故か他キャラと比較的絡ませやすいイメージがある、なんでだろうな・・・。
ま、とりあえず瑠衣ちゃん誕生日おめでっとう!正志も誕生日おめでとう!
また機会があれば瑠衣ちゃんSS書きたいね。今度は主人公君も交えて。


さて次回は…バレンタインデー用に一本考えているんだけど、これが間に合うのか、間に合った所でちゃんと完成されてるのか、そもそも上げるのか。いろいろと疑問。もしかしたら埋もれる可能性も…。
ま、つぐみちゃんのSSもあるし頑張って行きたいとこだ!とか言っておく。
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by Horyday | 2011-02-02 01:15 | 小説


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