2006年 05月 10日
早速本編ドゾー。 「ああ、そうだ。私はあるものを取りに来たんだった。」 女主人は、唐突にそんなことを言った。 「棒読みなのが気になるわ・・・。」 メリィはそう突っ込んだが、女主人は無視。 「アキラ、そこの隅にある古刀持ってきてちょうだい。」 「ん?あれの事?」 女主人が指差した方向へとアキラは向かう。女主人の指す「隅」には、刀は一本だけだったので、アキラは簡単に見つけることが出来た。 少し埃の被った、小太刀位の大きさの刀を持ってきたアキラは、「これをどうすんの?」と女主人に訊ねる。 「ん~、アキラ、そいつを抜いて御覧。」 そう言われたので、アキラは素直に刀を抜く。 刀身は薄暗い店中でもぼんやりと輝き、まるで鞘の薄汚さを否定するかのようだった。 「・・・アキラ!それを戻しなさい!」 メリィは突如叫んだ。アキラはその急な剣幕に慌てる。 「え、あ、わ・・・うわっと!」 とりあえず戻そうとするも、慌てていた所為でそのまま刀を床に落としてしまう。 チリン、チリン、と刀身が地面に連続して当たり、鈴のような音を店内に反響させる。 「あ、ご・・・ごめん。」 アキラは、落としてしまった事をメリィに謝り、拾おうとする。 「触らないでっ!」 「うえっ!?」 またも怒鳴られ、アキラは困惑する。とりあえず、思ったことを、口に出してみた。 「・・・何だよ、戻せって言ったり、今度は触るなって・・・。」 メリィは険しい顔をして、落ちている刀を睨みつつ、言葉を返した。 「あのまま拾っていたら、あなた乗っ取られていたかもね。」 「・・・え?」 乗っ取られる。滅多に耳にしない言葉を言われて、アキラは困惑した。 「つまり・・・この刀って・・・。」 「ねえ、貴女。この刀は一体・・・?」 メリィは女主人の方へ振り返り、言葉を止めた。 女主人は、いつの間にか消えていた。 「げえ!あいつどこに行きやがったんだ!!」 同じく、女主人の不在を知ったアキラは大声を上げる。 (あの女・・・。) メリィは頭を振った。今は現状の処理に専念する事にしたのだろう。 「アキラ、ここから出て行きなさい。ここは危険になるわ。」 「え、でも・・・メリィを置いて行けねえ・・・。」 「足手まといよ。私が満足に動けない。」 「で、でも・・・相手は刀だし。動けないから放っておいても・・・ええっ!?」 動けない、と思っていた筈の刀は、何故か宙に浮いており、その切っ先を二人に向けていた。 「な、な、なんでだよぉ~っ!」 「悪霊・・・か、怨霊かしら。余程強いみたいね。ここまで気づかなかった私もいけないわ。」 「ど、どうしよう!?」 「だから、あなたはそこの入り口からとっとと逃げなさい。後は私がどうにかするわ。」 「え、あ・・・でも!!」 「邪魔なのっ!同じような事を二度も言わせないで!」 メリィの顔は真剣そのものだ。 アキラは、その顔を信じる事にした。それに、ただの子供である彼が、真剣相手に出来る事は、何も無い。 「・・・っく!」 アキラは、念の為、刀に悟られないようにゆっくりと、入り口の方へ向かう。 「・・・・・・・・・。」 メリィは刀を睨み続ける。どうやら、彼女があの刀を威嚇しているらしかった。 「・・・・・・・・・・。」 幾秒経っただろうか、アキラは、ようやく入り口へと辿り着き、戸口に手を添える。 (出れるっ) そう確信した瞬間、彼は戸口を引―。 がちゃ。 けなかった。 「な・・・。開かねえ!鍵なんてかけてない筈なのに・・・。」 「何ですって!」 メリィがアキラの方へ向く。そしてすぐに「しまった!」と叫んだ。 刀が先程音を立てた方向、つまり、アキラの方向へと向いた。 そして、そのままアキラへと突進する! (・・・やべえっ!) アキラはそうは思ったが、体が反応しない。 刀は、後コンマ何秒かで、彼に当たるだろう。 彼は、思わず目を瞑るのと、ガキン、と音がしたのは一緒だった。 その後で、どすっという音も聞こえた。 「・・・・・?」 アキラは、恐る恐る目を開ける。 目の前から、刀は消えていた。 別に、自分の体に刺さっているわけでもなかった。 「あれ・・・?」 アキラは、周りを見渡す。 刀は、アキラの横にある壁に深く刺さっていた。 「・・・・どうなってんだ?」 アキラは、何故か横の壁に深く刺さっている刀を見つめながら、そう呟いた。 「・・・危なかったわね。」 「!」 後からメリィの声が聞こえたので、振り向く。 彼女は、さっきまで立っていた筈の机の上には居なかった。 「下よ。」 「お。」 下を向く。確かに彼女は居た。 ・・・右手に何かを持っていたが。 「それは?さっきまで持ってなかったよな?」 アキラは、メリィの持つそれに、指を向ける。メリィは、右手に持っているそれを高く掲げた。 「ああ、これね。これは『ジャック』って言うの。見た目は鋏だけど・・・生半可な刃物よりは、良く斬れるわ。」 「・・・小さいのに、随分とゴツイ物を・・・。さっきも、それで?」 「ええ。思いっきり叩きつけてやったわ。まあ、仲良くなれた珍しい人間だもの。・・・大切にしなくちゃね。」 「う~ん、なかなか嬉しい事言ってくれるじゃねえか。」 へへっ、とアキラは笑った。それにつられたのか、メリィも微笑んだ。 ずっ、ずっ・・・ず。 「ん?」 何かを擦る音がしたのに気づき、アキラは、音のした方へ向く。 と、言うよりも、何となく分かっていた。 だって、音がしてたのは。 「・・・うわっ!」 さっき、刀が刺さった壁の方向だったから。 刀は、自らの体を少しずつ揺らして、壁の傷を広げ、それで抜け出したのだろう。 「あら、あのまま大人しくしていれば、あの女に後を任せようと思ったのだけれど。」 メリィは、文字通り抜け出した刀に、余裕たっぷりに言い放つ。 刀は、その言葉が届いているのか、小刻みに揺れていた。 つばの部分が、ちきちきと、気味悪く音を立てている。 メリィは、鋏を構える。 「アキラ、今度こそは離れてなさい。体を傷つけても・・・知らないから。」 アキラは、こくん、と頷いた。 そして、さっきの様にゆっくりと離れ、入り口の対象にある、レジのあたりへと移動した。 (・・・俺の出る幕じゃ、ないなぁ) アキラは、自分の役立たずっぷりを嘆いた。 「さあ、かかって来なさい。この、私を恐れないのなら、ね。」 挑発するようにメリィは薄く笑う。 どうやら聞こえているらしい、刀は、その言葉が発すると同時に、メリィへと突進した。 ガキィンッ。 かなり早い突進にも関わらず、メリィはそれを綺麗に弾く。 刀は空中でくるくると回り、直ぐに体勢を立て直す。 そして、またメリィに標準を合わせ、突撃する。 「馬鹿の一つ覚えみたいに・・・。」 メリィは、鋏を開いた。 ガキンッ 「猪みたいな動きしか出来ないのかしら!」 そして、刀の突進を避けつつ、思いっきり鋏で刀身を挟む。 金属の擦る音が響き・・・メリィは、刀を捕獲する事に成功した。 ギリギリと、刀は鋏から逃げ出そうとするが、全く動ける素振りを見せない。 「アキラ!鞘を持って来なさい!」 メリィが叫ぶ。アキラは、お、おう!と慌てながらも鞘を拾い、メリィの元へ近寄る。 「良い?そのまま、刀に触れないように鞘に収めなさい。少しでも入れば・・・きっと、これの怨念は治まるわ。」 アキラは、こくん、と頷き、ゆっくりと、刀に鞘を近づける。 鞘は、メリィが刀を強く挟んでいたお陰で、簡単に入れることが出来た。 そして、メリィの言うとおり、刀は、鞘に入れた瞬間、その動きを止めた。 ・ 数分後。 その後も、慎重に、慎重に刀を鞘に戻し、最後まで収めたアキラは終わると同時に床にへたり込んだ。 その右手には、先程収めた、呪いの刀がある。 「疲れた~。メリィの言う通り、静かになってくれて良かったよ。」 「思ったとおりだったわ。多分、この鞘は一種の封印器みたいな物なんでしょうね。だから、刀を抜くまで気づかなかったんだわ。」 「ふ~ん、そうなのか・・・。」 「へえぇ~そうなの。」 アキラと、女主人は納得した。 「・・・って、あんた、今までどこに居たんだよ!!」 アキラは、さも当然そうに居た女主人に突っ込む。 「どこって・・・店の奥にだけど?」 「自分だけ逃げんなよ!俺たち、大分怖い思いしたんだぞ!」 「別に私は怖がってないけど。」 「・・・う。ま、まあとにかく!こいつは奥にしまっておけよ!他の客が触ったら、騒ぎ所じゃなくなるぜ。」 「あら、私の事を心配してくれてるの?」 「後、この店もな。ココほど退屈しない場所知らないし。」 そう聞いて、女主人は「あらそう。」と答えた。 その顔は、とても満足そうなものだった。 ・ 「・・・ふぅ、じゃあ、今日はもう疲れたし、俺は帰るよ。」 アキラは、座ったまま暫く休んだ後、立ち上がった。 「今日は面倒な事にさせて御免ねえ。また来てちょうだいな。」 「あいよ。じゃあ、またなメリィ。」 急に自分の名を呼ばれ、きょとんとするメリィだったが、直ぐに微笑み、 「・・・ええ、また、ね。御機嫌よう。」 そう言って、アキラに手を軽く振った。それは、やはり彼女の様な外見に似合う、優美なものだった。 「おう、じゃーなー。」 その言葉を最後に、アキラは家路へとついた。 そして、何事も無かったかのように静かになる店内。 「・・・さて、どういうつもりかしら?」 メリィは、睨みながら女主人に顔を向ける。 女主人は、何食わぬ顔でいる。 「どういうことかしら?」 「貴女・・・あの刀の正体知っていて、彼に抜かせたでしょう?」 「ええ、そうね。」 「何故そんな事させたのかしら?下手をすると彼、二度と来ないわよ。」 「別にそうは思って無かったわ。・・・一応、あなたよりは付き合い長いからねえ。」 「・・・・・・。」 メリィは、「やはりわからない」といった顔で女主人を睨む。 「・・・ふぅ、本当はね、あなたに、新しい友人を作ってあげたかったのよ。」 「え?」 メリィは少し驚く顔になる。 「まあ、やり方は乱暴だったけどさ・・・。あなたって「そういう人形」じゃない?ああして、少しでも「あなた」を見てもらわないとね。今の内に気づくのと、後で気づくのじゃあ、色々と驚き具合が変わるからね。」 「もし、それで彼が私を拒絶してたら?」 「あの子の適応能力の高さは、私の保障済み。多分、あんたごときじゃあ、嬉しがるだけよ。」 「・・・つまり、最初っから、逃げる事はない、と。」 「そう、あの子も、あなたもね。」 「・・・別に、私は。」 「二日も不貞寝してるやつが何を言いますか。しかも、私の声は無視してたくせに、あの子に起こされちゃって。」 「そ、それは・・・彼が、私の頬を触るから・・・。」 「ふう、まあいいわ。どう?まだまだ「外」は捨てたもんじゃないわよ?」 女主人がニヤニヤとメリィに言う。 メリィは、少しだけ頭を下げ、女主人には見えないように、薄く微笑みながら、こう呟いた。 「ええ、そうね・・・そうかも知れないわ。」 ・ ・ ・ ガラララーと、小気味良い音。 「いらっしゃーい・・・ってあんたか。」 「俺で悪かったな!」とアキラ。 「あら、いらっしゃい、アキラ。」 客がアキラと分かったのか、メリィがレジの奥から出てきた。 「よう、今日は寝てないんだな。」 「別に、いつ寝ようが私の勝手よ。それに、折角待っていたんだから、喜びなさいな。」 つんけんとした態度で迎えるメリィ。 「あー。そりゃすまない。」 「全く・・・まあいいわ。正直、今日は来てくれて嬉しかったわ。」 「えっ、何で?」 「実は・・・。」 「昨日あんたに迷惑かけたじゃない?そのお詫びというわけで、メリィの指示の元、クッキーを作りました~。」 女主人が割ってはいる。「折角の私の台詞が」という顔をしながら、メリィは女主人を睨んだ。 女主人は鼻歌を出しながら、あさっての方向へと顔を向けた。 「へえ、メリィって料理得意なんだな。」 感心するように言うアキラ。 「まあ、前の持ち主の受け売りだけど。」 「んじゃあ、ありがたくいただこうかな。」 「ほい、ここに持ってきてるわよ。それと・・・紅茶も。」 女主人が、レジ下から大皿いっぱいに入ったクッキーを取り出す。埃が付かない為なのか、ラップを引いてあった。紅茶は、いかにもなポットに、これまたいかにもなコップが三つ。 うち、一つはメリィ用に小さい物だった。 「アキラ。」 メリィがアキラを呼ぶ。 「ん?何?」 「どの位、ここにいるのかしら?」 「ん~?今3時半だろ?・・・あと三時間くらいは大丈夫だぜ。」 それを聞いて、メリィは少し、ほっとするような顔になる。 「じゃあ、少しお話でもしましょうか。そうね、例えば私の前の主人の話とか。」 「ああ、そう言えば、メリィは前に主人がいたんだよな?ちょっと興味あるかも。」 「あら、それは私も興味あるわね。」 「貴女はよけいだけど、話してあげるわ。歳は、アキラに近いくらいでね・・・。」 骨董屋に三人(二人と一体)の話し声が響く。 いつもは、埃っぽい店内だったが、今日は紅茶と、クッキーの匂いで満ち足りていた。 ・・・・了。 とりあえず、終わった・・・orz・・・ハァ、ハァ 予想以上に長くなっちまった。しかも結構グダグダだし。 書きたい場面を上手く書けなかった、て言うか・・・。 でも、とりあえずマッタリ終わらせて良い、のかも知れない。 う~ん、機会があれば新しく書き直してもいいかも・・・。 もしくは、続きを書くとか。 とにかく、「この」小説は、今回で終わりですね。 見てくれた人(いるかな?)、読んでくれてありがとうございます。 おまけ。 メリィに関する設定2。 メリィは、実は魔法使いが創った人形という事にしています。 その為、外見が人間ぽく創れているんですねw(かなり無理やり)勿論、目も。 骨格とかは、人間のそれと違いますが、実は、食物を摂ったりすることが出来、ちゃんと、排泄器官もつくられているのです。ある意味、BJのピノコみたいな感じか?(違うか) 凄いですね、魔法使いw ちなみに、彼女の名前の由来はメリーさんから。彼女の持つ鋏「ジャック」は「切り裂きジャック」から来ています。 世界観。 一応、昭和の雰囲気が漂う日本、という事にしています。明確な時代表現はしません。
by Horyday
| 2006-05-10 22:49
| 雑記
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