東方の夜明け

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2011年 05月 13日

Goodbye to me in those days ~ そして ~ 

※このSSはフィクションです。
※登場する人物、地名、団体名(んなもの出ねえ)、シチュエーション、メイドさんは架空のものです。(俺だけの中で良い)
※都子誕生日記念SS



そこは真っ暗だった。
上も下も右も左も、良くわからない。
ただ暗い中、彼は自分がそこに居るのを認識していた。
首を回してみるが、やはり見えるのは黒一色の景色。手のひらを目の前にかざしてみるが、それも見えない。それくらいに、暗かった。
いや、最早暗いというよりも黒という表現で良いのかもしれない。
そんな中、彼はただ身を任せて立っている。もしかすると、立っていないのかもしれないが、彼には関係なかった。
徐々に感じてきた柔らかい気持よさに、彼はその身を委ねようとする。
「…ろー!」
小さい何かが聞こえてきた気がした。
「…きろー!」
それはどんどん大きく、鮮明になっていく。
次いで、黒の空間が揺れている気がしてきた。
「…おきろー!」
いや、気のせいではない。それは確かに揺れていた。
黒が正面から白味を帯び、どんどん広がっていく。
そして鮮明になる様々な感覚。
「もぉ、大学生活一日目だってのに、いい加減にしなさいよね…っと!」
次にやってきたのは、頭への衝撃であった。
「ぬが!」
その衝撃と同時に、彼は小さくうめき声を上げる。
打った頭に痛みが走り、感覚が更に鮮明になっていく。
薄く開いた瞼を徐々に開けると、眩しい光が目に挿し込み、彼は思わずピクリと瞼を震えさせる。
だが、それも直ぐに慣れて彼はゆっくりと目を開かせたのであった。
視界の中に入ってきたのは、逆さまに映った自分の部屋の風景と脚であった。
紺のソックスを履いたその脚は、軽く足を広げている。
視界を上、ではない。逆さまになっているので下に向けると、そこには見慣れた幼なじみの姿があった。
「起きた~?」
「つつつ…こんだけ痛けりゃ嫌でも起きるよ。」
頭の、床にぶつけたらしい部分を手でさすりながら、彼はゆっくりと起き上がった。
痛みがあったとは言え、それでも起きたばかり特有のまどろみを頭に残しながら目をこする。
そして改めて目を開いた。
そこで彼はある違和感に気づく。それは目の前に居る幼馴染―大倉都子―からであった。
その違和感の正体は簡単であった。彼はそれを口に出して言う。
「都子…お前、髪。」
「ん?ああ、これ?」
彼が、その部分を指で指したのに都子は気づき、そこへ自身の手を持っていく。
そう、彼女の長い髪はバッサリと切れていたのであった。



春の陽光と共に、二人へ撫でてくる風が心地よかった。
彼と都子は、卒業してから購入した自転車に二人乗りで二流大学へと登校している。
初めは二人で一台ずつ、と考えていたのだが予算が足りず結局一台で二人乗りして行こう、という事になったのである。
二流大学へ向かう道は特に急な坂道や曲がり道も無く、平らな道ばかりだったので安全に関しても問題はない。
今、二人は家から出て暫くした所にある、中央公園を通過しようとしている。
「うーん、今日はいい天気ね~。桜も綺麗に舞ってるし、良い気持ちになるわね。」
「…。」
自転車を運転している彼の後ろで、都子が感慨深げに言った。
彼女は後ろで運転している彼の両肩に手を乗せている形で立っている。予算の都合で座席を取り付けてないので、ちゃんと座れないからだ。
とはいえ、都子自身も座るよりかはこっちの方が良いと言っていた為、どの道こういった形で通学する事にはなっていたのだが。
「けど、これだとスカートを履けないのが難点ね。」
この体勢で通学することが決まった時、そう言って苦笑してた都子であったが、今日は実際にジーンズのパンツを履いていた。
「こうやって桜が景気よく咲いてると、花見の一つでもしたくなるわよね。」
「…。」
「ちょっとー、何か言いなさいよね。」
彼の頭の上に、重みが加わる。
少しだけ尖った痛みを感じて、彼は都子が顎を乗せた事を察した。
彼は別に、わざと言葉を返さなかった訳ではない。ただ、少し考えていたのである。
今朝、彼女を見た時に髪が切られていたという事を―。
3年間通っていた、きらめき高校を卒業する時はまだ長かった筈であった。二流大学へ登校する今日まで何回か話をする事はあったが、それは全て電話越しであって実際に会ったわけではない。
今まで変わってなかった事が突然変わった。そんな唐突な出来事が、何故か彼の心を大きく支配している。
出来ればあの時に聞くべきだったのだが、彼はそのショックが大きすぎて聞くタイミングを逃してしまったのであった。
「別に、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけさ。」
けれど、それを感づかれたくなくて。思わず彼はぶっきらぼうにそう返した。
「ふぅん、ちょっと…ねぇ?とても”ちょっと”って思えない口ぶりじゃない。」
しかしそこは長年連れ添った幼馴染というべきか、都子にはバレバレだったようだ。
彼の右頬に、何かが触れる。それが都子の指と判るのに時間はかからなかった。
「ほらほら、一体どうしたのよ~。何か悩み事があるのなら幼馴染のよしみで聞いてあげるわよ?」
「…。」
彼はちょっとずつ自転車のスピードを緩め、止めた。
都子は何かを察したのか、何も言わずに自転車から降りる。
彼も自転車から降りてスタンドを下ろす。丁度、近くにあった自販機に目がついたのでそこへと向かい、ドリンクを二本買ってきた。一本は自分用にココア、もう一本は都子が好きなジュースであった。
「ほれ。」
「あっ、と。ありがと。」
軽く投げたそれを都子は両手で受け止める。ヒンヤリとした感触が手のひらに伝わり、彼女は少しだけ握る力を強くした。
彼は先にココア缶のプルタブを開け、口の中へとそれを流しこむ。
半分くらい飲んだ所で口から離し、ふぅと一息ついた。都子の方を見ると、彼女は缶のプルタブを開けずに彼が言い出すのを待っていた。
「飲まないのか?」
「うん、先にあなたが話してよ。」
そう言われて彼は頬を指で掻いた後、もう一度息を吐いてから口を開いた。
「いや、なんでお前髪を切ったのかな…って。そこが気になってさ。」
「髪って…これ?」
「うん。」
都子が手で添えた部分を見て、彼は頷く。
「なんていうか…都子、今まで髪を切らなかったからさ。今朝、お前が髪切ってるのを見て凄くショックを受けたっていうか、なんていうか。」
「な~に。もしかして、髪を切った事で私の魅力に気づいたの?」
戸惑った表情の彼とは対照的に、都子は余裕を持った表情でからかってくる。
彼としては真面目に話しているつもりだったのだが、彼女の態度がどこか新鮮で、思わず笑ってしまう。
「…ははっ。なんか都子、変わったな。」
思わず言ったセリフだったが、そこで都子の表情が少しだけ変わる。
表情自体は先ほどと変わらない笑顔だったが、少しだけ困ったような表情になったのだ。しかし、彼はその細かな変化には気付かなかった。
「そう?」
「ああ、もしかしたら今まで気付かなかっただけかもしれないけど。」
彼はもう一度頬を小さく掻く。
「そうだな、確かに都子のその髪型、似合ってると思うよ。」
「…そう。」
彼女の表情は変わらない。
長い沈黙が二人を包む。彼は、それの居心地悪さを誤魔化すかの様に残りのココアを喉奥へと流し込んだ。
「その、ね。」
缶の中のココアが無くなりかけた時、沈黙を破る様に都子の口が開いた。
彼は上に傾けさせていたココアの缶をゆっくりと下ろして、彼女の方を見た。
彼女の表情はまた先程とは変わり、真剣な眼差しで彼の事を見ている。
そんな彼女が言葉を紡ぐ。
「なんていうんだろう。きらめき高校を卒業してから、あたし…終わったんだなぁって気がして。」
「終わった?」
聞き返す彼に、都子は小さく頷いて空を見上げた。
空は春の陽光を目一杯照らさせるかのように雲ひとつ無く、青く広がっていた。
「うん、終わったの。だから、一種の”ケジメ”ってやつかな。結構気に入ってたんだけどね、小さい時からずっと伸ばしてたし。」
「…悪いこと、聞いたかな。」
「あ、ううん、もう良いの。私が決めた事だし、それに…なんかね、髪を切ってから気持ちが変わった気がするのよ。」
「気持ちが?」
「うん。」
彼女は笑顔で頷く。その笑顔が、春なのにまるで夏の日差しのように眩しくて、彼の心を再び動揺させた。
(思えば…こいつがこういう風に笑っているのは久しぶりに見たかもしれないな。)
高校に通っていた間、都子とは幼馴染として漫才のようなやり取りをしてたのは覚えてても、こういう風に満面の笑顔を見せた事は記憶に無い。
そう思い返す彼を他所に、都子の言葉は続く。
「生まれ変わった…なんて言ったらちょっと大袈裟だけどね。でも、身体が軽くなったような、不思議な感じなの。」
そう言って彼女は目を瞑り、缶を持った両手を胸の前へと持ってくる。
彼には全ては理解出来なかったが、どうやら彼女にとってある種の転機となったという事は伝わってきた。
そんな彼女の頭に彼は、ぽんっと手を置いた。
突然のことに、都子は閉じていた瞼を開き目を丸くする。
「な、なにすんの!」
状況を理解し、今度は彼に対し睨みかける彼女であったが頭に乗せた手を払うことはしなかった。
「別に。ただなんとなく。」
「なによ、それ。ちょっと生意気…。」
不器用な撫で方であった。優しさも何も無い。
幼馴染だから出来ると言える、気安い撫で方であった。しかしそれが都子には少しだけ心地良かった。
けれど、それを誤魔化すように頬を小さく膨らます。彼には、そんな彼女が普段より幼く見えてしまい、思わず吹いてしまう。
「な、なによぉ~。」
「あはは。いや、なんていうか、今まで気付かなかったけど都子って可愛かったんだな。」
「か…ど、どういう意味よそれ!」
彼の言葉に顔を真っ赤にした都子であった、それを気にも止めず彼は誤魔化すように自転車の方へと戻って行く。
静かに、しかし顔は笑いながら彼は自転車へ再び跨る。
「もう!」
都子もそれに続いて再び後輪部に足を置き、彼の両肩に手を置くのだった。
彼女の手の重みを感じた彼は、間もなく自転車を発進させる。
春の陽光と暖かい風が、また二人を包みこむ。
彼は、きらめき高校に入学した頃を思い出していた。
初めて着たブレザーの着心地、匂い。入学式を迎えた当日のクラス発表と、星川さんや学、正志との出会い。そして変わらぬ幼馴染との付き合い。
その後は色々な人物と交流があったけど、結局何の進展も無いまま二流大学の入学試験に合格して卒業してしまった。
今思うと、良くも悪くも刺激のない生活だったな、と彼は思った。
「なぁ、都子。」
走りだしてから暫くして、彼が都子に声をかける。
彼女の位置からは彼の顔は見えなかったが、呼ばれた以上彼女は返事をするしかない。
「どうしたの?」
「んー…ま、これから大学生活4年間、よろしくな。」
「ふふっ。な~にそれ、改まって。ま、あなたはあたしが居なきゃズボラな事が多いんだから、これからもキッチリ見てあげるからね。」
「…うへ、お手柔らかに頼むぜ。」
そうやって彼が冗談めかして返すと、二人して笑いあった。
二人にとってはいつもと変わらない光景。きらめき高校に通ってた時も見慣れていた光景。
けれど今、彼の心にいつもと違う何かが芽生えてきていた。
今はちょっとした違和感でしか無いそれは、まだ彼に意識させるものではない。しかし、それはきっとこれから大きくなっていくであろう、小さな感情であった。
(もしかしたら、この4年間で面白いことが起こりそうかもな。)
だから、彼はその違和感をこれからの期待と認識しながら大学への道を後ろに乗せた都子と共に進むのであった―。

終わらない


あとがき

という事で都子誕生日記念SSでしたとさ。
これは「きらめき高校生活中に都子が主人公への思いを吹っ切った」という
IFシチュエーションを元につくっております。(なので髪を切った)
個人的に都子は初期状態の性格が好きなので…という理由からなのですけど、実際これは無理がありすぎる!
まぁ特に気にはしないのだけども(どうせ二次創作だし)。
今回の話は結構前に知り合いとの会話を一部元にしてつくっております…というか考えていたというか。
個人的には都子はきらめき高校在住時にアレコレさせるよりかは、こうやってダラダラと「幼馴染」を続けさせたほうが似合う気がしますね。
ちなみに、脳内アフターですが二人は28歳位に結婚した、というオチをつけてたりしてたり~というのはまた別のお話。

ちなみにうさぎさんは外して保存しております。
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by Horyday | 2011-05-13 00:44 | 小説


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